童話少年-NOT YET KNOWN-


自身の身に起こる異常事態を、何なのかわからずにいた。
動かしたい方向に動かずただ力なく垂れ下がる腕に苛立って、乱暴に振り回す。
そうすればまた身も心も裂くような痛みが襲ってくることを学習しないのは極端な知能の低さのせいで、なんだったらこれが“痛み”という感覚であることすら知らないのは、知識を蓄えることができないからだ。

ただし、こういうときにどうすればいいかだけは、この世に生を受けた時、その瞬間から、鬼の体は知っていた。
主人の元へ帰るのだ。

顔や声を覚えているわけではない、ただ匂いを追うままに辿り着く、その場所にいる人間こそが、鬼にとっての主人なのだ。

鬼は、自分がなぜ苦しんでいるのかもわからないまま、本能で主人を探していた。


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