Parting tears ~another story~
プロローグ
 目の前に広がる海は、あの頃と何も変わっていないのだろう。
 どこまでも続く水平線を見ていると、あまりに果てしなく、妙に寂しくなる。

 ――15年前、結麻と出逢ったあの日、この海に来た時は冬の夜だった。だから、俺はこの海の綺麗さに気付かなかったのかもしれない。でももし明るい時間に訪れていたとしても、きっと結麻に夢中で、海の綺麗さにすら気付かなかったと思う。

 会社から出張の場所がこの町だと聞いた時、俺は心臓が止まるのではないかと思った。今でも結麻を忘れられず、誰と付き合っても長くは続かない。風の噂で結麻は結婚し、数年前に子供が産まれたらしい。そして旦那が、どことなく俺に似ていると聞いた。結麻も俺を忘れられなかったのだろうか。いや、まさかな。結麻はきちんと前に進んでいるだろう。けれども俺は立ち止まったまま、今も過去を生きている。自分でも女々しいと思うけれど、結麻に対するこの気持ちはなかなか変わってはくれない。

 暖かい春の風が頬を撫で、砂浜に寝転んだ俺は波の音を聴いている。
 その時、波の音に紛れて懐かしい歌が聴こえた。

 ふと顔を上げ、横を見ると逆行で中腰になっている女性のシルエットが見える。


「ゆ……ま……?」


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