幸福論
「桂木先生の補習なんですか!?しかも2人っきりで!?『拷問部屋』で!?」

「あー?どうした美紀、落ち着け。」

「いいなーいいなー先輩いいなー。そんなんだったら、私も数学勉強しなけりゃ良かった。」

それは、あたしに対する嫌味ですか。
口にでかかったそのフレーズを、無理矢理押し込める。

「なに、あんたも桂木のファンだったっけ?」

「『あんたも』ってことは、他にもいるんですか!?」

「あー、まー、かっこいいって言ってる奴らが何人か。」

「くそ・・・ライバルか・・・。」

ライバルねぇ・・・。

「・・・どこがいいの、桂木の。」

「何って、あのぶっきらぼうな喋り方でしょー、あの長身でしょー、それに美形じゃないですか!
 眼鏡かけてるのに、あれだけ美形な人っていませんよ!それに学歴ですね。
 知ってますか!?あの人、T大なんですよ!?T大!!!
 先輩、長い間2人きりで密室にいて、何も感じなかったんですか!?」

「長い間って、1時間だぜ?」

「十分長いです!!!!!!!!!!!!!!」

「あぁ、そう。」

緑茶をすする。うん、美味い。
朝はやっぱ緑茶に限るねー。

「先輩、何もなかったんですか?」

「ねぇよ。ただの補習だって。あ、でも・・・。」

「でも!?」

「コーヒーもらった。うまかったなー。缶コーヒーだったけど。」

「えぇ!!?あーうらやましい。うらやましい。うらやましい。」

美紀は、恨めしそうな顔で私を見る。
ありゃ。

「美紀、あんた、アイライン大幅にずれてるよ。」

「えぇ!?うそ!?今日念入りにメイクしなきゃいけないのにー。」

「あーそう。じゃあ直してやるから、こっちおいで。」

美紀が顔をこっちに向ける。
うん、可愛い子を化粧するのは、楽しい。
美紀は、あたし好みの顔だしね。

「なに、あんた今日彼氏とのデートなの?」

「いえ、桂木先生の授業がある日なんです。」

「ああ、そう。」

今度は、あたしがため息をつく。

そうか、桂木の授業か。
じゃあ、気合入れて化粧してやろう。
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