蜜林檎 *Ⅱ*

触れる手

百合は、少年の名を呼ぶ。 

「レツ、来てくれたの」

「母さん、おめでとう」

「ありがとう」

百合は、烈に妹である赤ちゃん
を指差して教える。
 
そして、烈の肩を抱き
並んで小さな命を見つめる。
 
樹は、写真以外で初めて見る
烈の姿に驚き息を飲み込んだ。
 
「俺は、席を外すよ」

杏にそう告げて、樹は
その場を離れる。
 
杏はさっと、樹の動揺する
手を取るのだった。

「イツキ、私も一緒に行く」

樹は、触れる杏の手を
強く握りしめた。
 
そんな二人と、すれ違う雅也。

「イッキ、帰るのか?」
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