蜜林檎 *Ⅱ*

澄んだ瞳

繋ぐ手を放し
川辺の傍に停まった車に
駆け寄ろうとした杏の手を
もう一度、樹は強く掴んだ。
 
「少し、ここで話をしよう」

川辺の袂で、二人は肩を並べて
寄り添う。
 
杏は、ふと樹の横顔を見つめた
 
彼の瞳は、何かに心を囚われた
まま、遠くを見つめる。

いつもと様子の違う樹の事が
杏は、とても気になる。

「イツキ?」

『他の子なら誰でもいいから
 ・・・・・・
 あの子だけはやめて』

まりあの言葉が、樹の胸を
騒がせる。
 
まりあが今、何を
考えているのか・・・

樹には分からない。
 
ただ、分かっている事は・・・

樹の断ち切れない百合への
想いが、純粋に樹に憧れて
樹を愛したまりあの心を
深く傷つけ

現在の男性にだらしなく
どこか愛に屈折した彼女に
してしまった。
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