蜜林檎 *Ⅱ*
「貴方は誰・・・
 
 私の知ってる

 イツキじゃない」

震える杏の傍に近寄り
樹は耳元で囁く。

「俺がおまえを
 本気で好きになるとでも
 思っていたのかよ
 ・・・笑える
 俺を欲しがる女はこの世に
 ごまんといるんだぜ
 
 俺は誰にも縛られない
 分かったなら・・・」

杏は、涙声で話す。

「やっぱり・・・
 そうだよね・・・
 イツキが私なんか
 好きになるはずない
  
 イツキ、心配しなくていいよ
 姉妹でも、私はユリちゃんの
 ように自分を傷つけたり
 しないから・・・
 そんな勇気、私には無い」

「分かったなら、帰れよ・・・
 帰ってくれ」

ドアが閉まる音と共に、杏の
駆ける足音が廊下に響いては
消えていく。
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