蜜林檎 *Ⅱ*
「どうして、また
 アイツの元へ戻るなんて言う
 俺たち、うまくやってた
 じゃないか、アンがいつか
 俺に心を開いてくれる
 俺を愛してくれる・・
 そう思っていたのに
 どうして・・・
 アン、お願いだから
 俺の傍にいて」 

杏が樹への想いを、断ち切る事
ができずに苦しんでいたのと
同じように、蒼一もまた杏の中
の樹への想いに苦しんでいた。

そんな素振りを少しも杏に
見せることなく蒼一は
杏への想いを胸の奥に秘めて
彼女に指一本触れることなく
優しく大切に接してくれた・・

『私が、いけなかった・・・
 彼の私への想いを知って
 いたくせに、彼にどっぷり
 甘えてしまっていた
 
 私がイツキの元へ行けば
 ソウちゃんが悲しむ
 彼の悲しむ顔を私は
 見たくない』

杏は、蒼一の傍へ近寄り

彼を華奢な胸に抱いた。
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