淡い記憶
 水に入るのか入らないのか、何時から練習を始めるのかなど、
顧問の秦野教師に、尋ねに行くにも、時間を守らない田中よりも、
陽一郎の方が相談にのることが多かった。

 今日は冬の間、筋トレしかできなかった水泳部が、
冷たい水で初入水する日であった。

去年の夏の終わりで3年がクラブに来なくなって、
青木がキャプテンとなり、気温も上がる四月二十日が入水の日と決まっていた。

 この学校は水泳部に力も入れていないし、成績も良いこともない。
ただ地区の大会に出て、優勝もせず帰ってくるだけの水泳部であったが、生徒たちは、それなりに自分の体力の限界を突き詰めた。
それでも他校には、いくらでも速く泳げる選手が上にいて、
青木ですら予選第3組にも進めなかった。
そんな水泳部だから温水設備もなく、冬の間は、水にも入れない。
よっぽどの水泳好きしか入部せず、部員数も少なく、
学年で三、四人入部すれば、よいところであった。
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