どこかで誰かが…
「何言ってんの?私には彼氏が…あんたは大地くんのこと、どう思ってるわけ?」

「言わなきゃ分かんねーだろ。」

「言えないよ!言えるわけないじゃん!」

「…」

「あんただって、ゆっこのことが許せなかったんじゃないの?」

「あいつの時と!…コレは違う。それに、男と女じゃ違うだろ!」

「!」

「女がそーなった時は、心を許したってことだろ?」

「なにそれ?」

「おまえのガードが固いってことが、よーく分かったよ!サワの誘いにヒョイヒョイついて行くから、なんか心境の変化でもあったかと思ったけど」

「そんなこと」

「もうさ!イー加減、片桐くんのとこ行けば?つーかさ、男として同情するよ!浮気したって文句言われたくねーだろうなぁ!」

「帰る!」

「ああ、じゃあな。」


ドタドタと音をたてて出て行く佳菜子を、清瀬は一切見なかった。


玄関のドアがバタンっと閉まる音が、いつまでも耳に響いて聞こえ…
床に仰向けに倒れ込み、握った手を、何度も床に叩きつけるのだった。


今日まで築きあげてきた二人の距離に、一瞬にして亀裂が入ってしまった。

しかし、あのキスには、
長い間、あたため続けてきた気持ちが込められていたことは間違いなかったのだ。

大切な想いが…

なのに、それを軽薄呼ばわりされたことがプライドを傷つけ、強がり清瀬を呼び出した。


この“強がり清瀬”に変身するとタチが悪く、
いつも、ふと我に帰った時、酷い自己嫌悪に襲われるのだった。

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