どこかで誰かが…
それからというもの、二人が顔を合わすことは無かった。


佳菜子に避けられているこくらい見当はついていたし、
清瀬も、これ以上傷つきたくなかった。


本来、謝らなければならないところを、気を使って、わざわざ会わぬよう心掛ける日が続く、そんなある日、

仕事から帰り、一人で夕食を食べていると、食器を片付けながら母親が語りかけてきた。


「かなちゃん、カナダに行ったんだってねぇ。」

「え?」

「あれ?聞いてない?なんか急にバタバタと準備をしだしたとかって…なんかあったのかしらね?」

「…へー。」

「怪しいわね。」

「は?」

「そろそろ…だったりしてね!」

「…あぁ…かもな。」


何も無かったように、黙々と食べつづけ、

「ご馳走さま。」

キッチンに食器を下げてから部屋に向かうと、真っ直ぐベッドに寝転がった。


そして、

「そっか…行ったか…」

独り言を言っていることに、自分で気付いているのだろうか?


(ったく、感謝しろよな…)


結局、カナダに行くきっかけを与え、背中を押すこととなった、深すぎて複雑な、どうすることもできない想いに、我ながら笑うしかなく…


目の前に広がる白い天井が、まるでスクリーンのように、清瀬が知る色んな佳菜子を思い映し出すので、

横向きに寝返る清瀬だった。

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