嘘つき⑤【-sign-】
「芹沢さん、一緒じゃないの?」
美弥子さんは甘い声でその名を落とす。婚約を解消した事は知らない筈はないでしょうけど、その表情は読み取れなかった。
私が視線をさりげなく天童さんに移す前に、
「もうすぐ参ります。彼も忙しい人ですから」
天童さんがクイと口元を上げてそう口にする。この人の笑みが苦手だと思うのは、表面に自分を偽る様に飾るその笑い方が自分と似ているからかもしれないわね。何にしても、この奇妙な状況にまだ毅然としていられるかが心配だった。
美弥子さんは怪訝な顔を隠そうとせず、天童さんを明ら様に値踏みして見上げる。そして、真っ赤なルージュを艶やかに曲げると、
「あなたには聞いてないわ」
淡々と言葉を投げた。