嘘つき⑤【-sign-】

見上げた私の視線に恭平さんが気付くと困った様に笑う。


「あ、ごめんね。俺、そんな話聞いてなかったから。気になっただけ。それならそれでいーよ。おめでとう。だけどこの場でそれを振りかざすのは綺麗じゃないから気を付けて」

恭平さんは淡々と、だけど天童さんを見据えたままそう言い放った。


「それから、美弥子さん?愁哉は趣味は悪くないよ。悔しいけどね。」


ニコリと笑って、恭平さんは私と冴木さんに視線を落とした。―――本当に、掴めない方。


「まあ、冷やかしついでに詳しい事は本人から聞こうか」




恭平さんが視線を変えたのはすぐ後ろ。ほら、ね?と面白がるように呟く。その後を追えば、姿勢の良い見慣れたダークグレイのスーツ姿。


冷めた瞳がよく似合う人。


愁哉さんがゆっくりと歩いてきた。

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