嘘つき⑤【-sign-】

もう話はないかのように背を向ける部長。結局、真実なんて見せてくれない。あたしには、その感情を少しも渡してくれない。



「…部長、なんであたしと琴音さんが似ているのか、分かりました」


あたしは、真っ直ぐ部長の瞳を逸らさない様に見つめた。
綺麗過ぎる顔立ちは、僅かにその名に瞳の色を変える。



「あたしと、琴音さん。見ている物が同じだからです」


そう、初めからそうだったんだ。


「あなたしかいらないから、あなたしか見てない。」



だから、似てたんだ。
少しだけ驚いた様な表情で部長はあたしを見つめる。眼鏡の奥の理知的な瞳は今も尚、あたしを捕らえて離さないのに。



好きで、好きで、仕方ないのに。



今も、この腕に



抱き締められたくて



その温度に触れたくて



どうしようもないのに




だけど、やっぱり、あたしと琴音さんは違う。あたしは、冷たい瞳をするこの人を真っ向から受け止められなかった。そして、どうしても、部長があたしを見つめる瞳が含む色は、熱をもたない。


「…早く追い掛けて下さい」




振り絞るように出た言葉は少し震えたかもしれない。
どうしてあたしはこんな時までこんなに嘘つきなんだろう。



< 134 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop