嘘つき⑤【-sign-】
もう話はないかのように背を向ける部長。結局、真実なんて見せてくれない。あたしには、その感情を少しも渡してくれない。
「…部長、なんであたしと琴音さんが似ているのか、分かりました」
あたしは、真っ直ぐ部長の瞳を逸らさない様に見つめた。
綺麗過ぎる顔立ちは、僅かにその名に瞳の色を変える。
「あたしと、琴音さん。見ている物が同じだからです」
そう、初めからそうだったんだ。
「あなたしかいらないから、あなたしか見てない。」
だから、似てたんだ。
少しだけ驚いた様な表情で部長はあたしを見つめる。眼鏡の奥の理知的な瞳は今も尚、あたしを捕らえて離さないのに。
好きで、好きで、仕方ないのに。
今も、この腕に
抱き締められたくて
その温度に触れたくて
どうしようもないのに
だけど、やっぱり、あたしと琴音さんは違う。あたしは、冷たい瞳をするこの人を真っ向から受け止められなかった。そして、どうしても、部長があたしを見つめる瞳が含む色は、熱をもたない。
「…早く追い掛けて下さい」
振り絞るように出た言葉は少し震えたかもしれない。
どうしてあたしはこんな時までこんなに嘘つきなんだろう。