嘘つき⑤【-sign-】
―――――――――――――…

沈んだ感情は、小さく携帯の鳴る音で我に返る。


「琴音」


その重低音は年を重ねる事に威圧的になる。


「…父様?」



あたしは伏せていた顔を上げて、父様の声と向き合う。



きっと、父様本来と向き合えるようになったのは、多分、愁哉さんが婚約者になってから。その存在に支えて頂かなければ直視することなど出来なかった。




「今夜、食事に行く。用意しておきなさい」



父様は短く言葉を綴ると、すぐに通話を終えた。



食事、なんて、



そんな理由つけなくとも、与えられた事に刃向かいはしないのに。



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