嘘つき⑤【-sign-】
見送る背中は、もう止める事が出来ないと改めて感じる。
もう、あなたの温もりに触れる事はないのかもしれない。
ううん、きっともうないわね。
それならば、抱き締めておけば良かった。
壁など、どうだっていいのに。
止めたい背中を見送りながら必死に涙を堪える。
息を呑んだのは、
愁哉さんが扉を開けて、立ち止まったから。
「…あなたと感情のない婚約はしたつもりはない。少なくとも俺は」
愁哉さんは振り返らずに、扉はバタンと閉められた。