嘘つき⑤【-sign-】
触れたら、届く距離なのに、指先は彼には触れられない。
愁哉さんの呟きに胸が締め付けられて、痛い。
あの日、愁哉さんが私が泣き出すまで抱き締ていてくれた温もりを、あなたに返せたらいいのに。
傷つけたのが自分だと責める心は後悔で埋め尽くされて、泣かないあなたの代わりに涙を流したいだなんて、勝手過ぎるわね。
触れたい、だなんて勝手。
卑怯なのは私。
いつだって、形だけで縛り付けて、逃げ出せないようにしたのに。
愁哉さんが席を立つ。
触れない指先がジンジンと痛い。