嘘つき⑤【-sign-】
「仕事頼まれたんだってね」


あたしが口を開く前に恭平さんはそれ以上に嬉しそうに頬を緩める。


「ええ、2、3行の簡単な翻訳ですけど、嬉しいですわ」


ここ数日、めまぐるしく日々は過ぎて、あたしは出版社の小さな仕事を頂いた。


「麗子さんにも…申し訳ありませんわね」


力なく微笑む理由は、それが自分の力でないと感じているから。



「何言ってんの、義姉さんは関係ないよ?そーいわれたでしょ?それに義姉さんのコネで持ってくるんだったらもっとスケールがデカいよ」


屈託なく笑う恭平さんに救われた気持ちになるのは、昔から変わらないこの空気の柔らかさね、きっと。


頬をそよぐ空気にそっと微笑んだ。


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