誘惑プリンセス【BL】
 
「ちょっと、ドキドキしたかな」


 疲れてんだな、きっと。


「ホントに?」

「お世辞でこんなこと言えないって」


 まだ缶の中身は半分くらい残ってるけど。

 悪戯にぺきぺきと音を鳴らしてると、ヒメが両手を伸ばしてきた。

 缶ごと俺の手を包んで、にっこりと笑う。


「来てくれてありがとな」


 本当に嬉しそうに笑うヒメは、思わずドキドキしてしまうほど可愛くて。

 それを気付かれたくなくて、俺は平静を装って「ああ」とだけ、軽く返した。


「今日最後に歌ったヤツ、憶えてる?」

「他のと比べて、明るい感じのヤツだっけ」

「そう。どうだった?」


 どう、なんて突然聞かれてもなぁ……。

 ヒメの手を缶から剥がして1口飲んでから、俺をじっと見詰める大きな瞳に視線を合わせた。


「ちょっと意外な感じもしたけど、ヒメらしさが出てた気がする……かな」


 それまで、ハードな曲とバラードしか聞いていなかっただけに、飛び跳ねるようなポップなサビが印象的だった。

 リズムはハードでも、そこに乗せられる歌声が曲の重さを消して、ヒメ自身が楽しんでいるように見えた。


「陣には止めとけ、って言われるし、律にはまだ憶えきれてない、って泣き言言われたけど、歌って良かった。恭介に聞いて欲しかったんだ」


 思いもよらない言葉に、鼓動が勝手に反応する。

 ああ、ダメだ。

 俺、完璧に酔ってる。
 
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