誘惑プリンセス【BL】
 
「恭介さんのこと、知れば知るほど、どうしてこの人と一緒に居るのがヒメノで、俺じゃないんだろう、って。ああ、だからヒメノが嫌いなのかも……」


 俺が訳も分からずグルグルと混乱している間にも、陣くんは言葉を重ねて行く。


「俺、ヒメノは朔杜さんの所に居る、って言いましたよね。ヒメノは、恭介さんの気持ちを知りながら、恭介さんを振り回しておきながら、朔杜さんのとこに逃げて……っ、朔杜さんに抱かれるんです」


 そこまでハッキリと言われてしまうと、混乱した俺の頭が急速に冷めていくのを感じた。


 ──ヒメが、抱かれる。


 泣きながら俺に好きだと言ってくれたヒメが、他の男に抱かれる。 


「それでも、ヒメノのこと、迎えに行きますか……?」


 俺は、ヒメが好きだ。


「ズルいこと言ってるのは分かってます。恭介さんのこと、試すよなことしてるってのも分かってます。でも俺は……っ、恭介さんを裏切るようなことばかりしてるヒメノが許せない。恭介さんの優しさに甘えて、朔杜さんにも甘えてるヒメノが……っ」


 ヒメに対する陣くんの気持ちは分からない訳じゃない。

 俺だって、ヒメに苛々する事はある。

 あいつの言動についていけない時もある。

 襲われ掛けた事とか、勝手に出て行った事とか、言いたい事は山ほどあるけど、心底飽きれている訳じゃない。

 寧ろ、ヒメの事が気になって、心配で……。


 俺のこの気持ちは変わらない。

 そう簡単に、変わってはくれないんだ。


 ──だから……
 
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