新アニオタ王子
「僕にくれるの?」
「あんた、口臭いから」
これには、さすがの岡本も苦笑いを浮かべた。
静かな車内
車がどこへ向かっているのかも分からない。
流れる景色を見ていたら
どこかのアパートの駐車場に車を停めたオタク。
「ここは?」
「僕の住んでるアパートです」
どうやら今日は契約終了時間前に帰してもらえそうもないな。
あたしよりも
何十歳も年上のボロボロのアパート。
部屋も6畳くらいの部屋が二つ。
小さくて汚い部屋の壁、一面に貼られたアニメのポスター。
奥の部屋にダブルベッドと
大きな棚二つにびっしりアニメのDVDにフィギュア。
THEオタク
あたしの想像を遥かに超えたオタク部屋に
思わず息を呑んだ。
すると、「これ、明日返却しなきゃいけないんだ。」と1本のDVDを棚から取り出す。
「何それ?まさかアニメじゃないよね?」
ドン引きするあたしに
「残念だけど、違うんだ」
と、オタクもオタクで肩を落とす。
「…アニメじゃないなら付き合ってあげてもいいけど…」
「最初から一緒に観てもらうつもりで借りて来ました。」
そう言ってオタクはあたしの隣に座り
DVDプレイヤーを再生させた。
高校生の青春映画。
夢を目指す男の子と
夢に挫折した女の子の話し。
DVDを観ている
2時間の間、あたし達には一言の会話もなく、よくありがちな青春映画に没頭していた。
「こういう映画が好きなの?」
「知り合いの女性が脇役で出演してたんです…」
浮かない口調で答えながら、見終えたDVDを機械から取り出す。
「友達なんじゃないの?」
「友達なんかじゃないよ。もう二年くらい連絡もとってないし。」
その声色に
その浮かない雰囲気…
「片想いの相手だったりして?」
からかったつもりの言葉は
図星だったみたいで
あたしと会ってからオタクは淋しそうな顔をした。
その表情を見て
ツキンとなぜだかちょっと
胸が痛くなる。