─ Alice ?─
「……思い出した。」
そうだ。
私はお兄さんにアリスと
言われてアリスになった。
ひとりじゃないよ、
僕は味方だよ、って
優しい言葉
優しい笑顔
今まで味わったことのない
幸せに思えた。
「……今アリスに
見せられるのはここまでじゃ。」
ふと、目の前を見ると
真っ黒な部屋に佇むダイアさん。
嗚呼、私、夢から覚めたんだ…
「……お兄さ…、黒兎とは、
深い関わりがありました。」
" お兄さん "
というのは止めよう。
まだ、全てを思い出したわけではない
それに
お兄さん、と呼ぶ度
胸が痛む。
きっと、まだ何か
大切なことを忘れている。
「アリス、今、妾には
そなたに見せられる
"記憶"がない。」
" 記憶 "
きっと私の無くした
記憶のことだろう
女王様が消してしまった私の記憶
「しかし、
妾の他にもそなたの記憶を
持っておる者がおるはずじゃ。
まずはスペードを尋ねよ。」
……スペード?
「えーっと…その…
スペードさん?って…。」
「なんだアリス?
スペードのことも覚えて
おらぬのか?」
記憶ないって言ったじゃん!
なんて突っ込めず頷く。
「水を愛する美しき者だ。
……妾は気に喰わんがな。」
…最後が妙に気になったが
とりあえずスペードさんに
会うことにした。
「美しき湖のほとり…
蝶の舞う睡蓮華…
そこに入り口がある。
気をつけて行かれよ。」
頬に軽く触れるだけの
口づけをし、
ダイアさんと黒い空間は消えた。
まるで幻のように
淡く儚く 消えていった。
─ また逢おうぞ、アリス ─