─ Alice ?─
「貴女の笑顔が好きでした。」
急に、しんみりと帽子屋さんが話し出す。
「キラキラと輝いて、太陽のように
眩しい貴女が好きでした。
貴女の周りにはいつも
笑顔が溢れていて
皆、幸せそうでした。
そんな皆に愛されている貴女を自分のものにできたら…
そう、思ってしまったのです。
無理矢理でもいい
アリスが望まなくとも…
私だけのアリスにしたい。
ですが…─」
アメジストの瞳が揺らぐ。
「違うのです。
貴女を無理矢理手に入れても
私のこの欲求は満たされない。」
シュル
蔓が離れていく。
帽子屋さんは私に覆い被さったままだが、
先程よりも力を弱めてくれている。
「貴女が…好きでした。
愛していました。
ですが貴女は私をアイシテいない…」
苦しそうに、だけど決意を決めたように私を見つめるその瞳は
最初の頃の紳士な帽子屋さんだった。
「貴女が一体誰を選ぶのか、
ゆっくり見物してみましょう…
最後の最後に、
アリスの気が変わることも有り得ますからね。」
ニコリ、と優しく笑い、
私に軽い口付けをして
帽子屋さんは去っていった。
一度も振り向くこともなく
ただ、前だけを見据え、
私の下を去っていった。