─ Alice ?─



「ちっ…ちがっ…」



『違う。』そう言いたかった。


けれど、





本当に違うの?



『ありす…。僕の、僕だけのありす…。僕へ抱いていた感情はどこへいったの?やっぱり君はチェシャ猫が…―――』



拳を握り締め、悲しみに暮れた顔で私を見る黒兎さんは




優しかった頃の黒兎お兄さんに見えた。



『チェシャ猫、あいつは狂いに狂ったんだ。

君とまともに会話すらできないんだよ?

君を喰らおうとし、牙まで向ける。

それに、過去に君を突き放したじゃないか!!そんな奴を選ぶなんて…あり「黙れ黒兎。ありすはアリスになった。貴様の言うありすはもういない。さあアリス、此方へ来るが良い。」』





【 アリス 】


ビルさんはそう言った。


私は、アリス…――?



「さあ、アリス。


時は来た。


鐘は鳴り響いた。



君は、不思議の国のアリスに選ばれし者――」




コツ コツ





歩み寄るビルさんの足音が頭に響く。




『ありす…僕の、ぼくだけのありすっ…』


嘆く黒兎さんの声が胸を締め付ける。



「さあ行こう。キングの下へ。此処に用は無い。裁判所で起きた事は忘れて構わない。そして私の事、黒兎のことも。」



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