─ Alice ?─




甘く魅惑的な薔薇


妖艶で 美しく 私の記憶を鮮明に引き出す。



滴る血がドレスを汚す。
肌を、髪を、靴を、真っ赤に染めていく。



「……戻らなくちゃ。」




私は、あの国へ戻らないといけない。



汚れたドレスを捲り上げ、ヒールを脱ぎ捨て、薔薇を一輪髪に挿し、全力でトンネルを駆け抜けた。





───
    ア 
       リ 
ス 
───



「えっ──?」


一瞬、聞こえた誰かの声。
聞き覚えのある、誰かの──






「………リスっ……アリスっ!!」



遠くから叫ぶ声。チェシャ猫の悲痛な叫び。


今、チェシャ猫に見つかったら、また言葉に流されてしまう。


私は戻るの。あの国へ。



私は再び駆け出した。









『不思議の国』へ戻るために。



『戻る』ために










駆け出したのに。




私は道を誤っていたことに気づかなかった。
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