獣~けだもの~
 そんな、弁慶の叫びに、遮那王は、ずぃ、と近づいて言った。

「判ったよ。
 本気、なのだろう?
 ……だったら、つきあってやろうか?
 あまりに面白い、その夢に」

「……え?」

 戸惑う弁慶に、遮那王は、力の限りの笑いを収めて、真面目な顔になった。
 
「我も『どうせ、何もできないから』と人生を……全てを放置していた。
 しかし。
 そなたが上を目指すのに、大の男が、指をくわえて見ていてどうする。
 白拍子をあさる街の暮らしにも、そろそろ飽きて来たことだし。
 今度は、坊主と一緒に天下取り、も悪くない」

「……わたしは尼だ」

「ま、細かい事はどうでもいいさ、面白ければ。
 我と一緒に、夢を見よう。
 賢い人間が見る小さな夢では、ない。
 莫迦で無謀な獣が見るような。
 特別にでかい夢を……」

 そう、弁慶に言った遮那王は。

 今まで眠っていた、荒んだ仇花畑から、目覚め。

 ゆっくりと立ちあがる、一匹の白く、しなやかな肉食獣のようだった。

 

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