獣~けだもの~
「そなたと出会ったとき。
 我は、確かに獣だったな。
 腕は立っても、世間知らずのガキでしかなかった。
 それから、だいぶ刻が経ち、さまざまなものを見知った我は『人』になったつもりでいたのだが……」

「あなたが、真に『人』であるならば、もっと器用に生きていたでしょうよ」

 ふと、遥かな刻を思い出すような遠い目の主に、弁慶はからからと笑った。

「けれども、わたしは不器用でも、まっすぐに生きる、あなたの事が好きです。
 誰の前にあっても自分の意志を貫く、あなたの後ろを走るのは、心地よかった。
 命を賭してでも、あなたと一緒に夢を見たいと思うほどに……」

 そう、言って弁慶は、がしゃり、と鎧を鳴らして膝を折った。

「しかし、全ては、もはやこれまで。
 多勢に無勢、とはいえ。
 こんな形でしか、あなたを守ることが出来ない、不甲斐なさをお許しください。
 そして。
 最後に安穏な道でなく、修羅としての厳しい道を願う、わたしの我がままを……」

 ……お許しください。

 そう、呟く弁慶の声は、義経の耳に届いたのだろうか。

 常ならば。

 主の前でさえ、めったに頭を下げない者の言葉に、義経は頷いて応えた。




 ……そのときだった。

 
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