獣~けだもの~
そう。
遮那王と出会ったときには、既に弁慶の従者で。
武蔵坊、と言えば皆が思い浮かべるほどに、見事な体躯の弥太郎が。
館の門前に両手を広げて立ちつくしていた。
六尺五寸のその身には、無数の刀傷があり。
また、更に多くの矢が刺さり、傷から地を滝のように流していた。
他の遮那王の従者が死に絶えて。
たったひとりで五百の騎馬と戦い、矢を受け止めた、壮絶な漢(おとこ)の姿が、そこにあった。
「弥太郎!!!」
あまりの光景に、誰もが言葉を失った奇妙な、静寂の中。
ただ一人、喉も裂けよと絶叫した弁慶の声に。
誰が見てもその命が、消えかけていると見える漢が、ゆらり、とその首(こうべ)を上げた。
「……べんけい……さま」
まだ、生きて『は』いる。
と。
かろうじて判るささやき声に。
弁慶もまた、声を失った。
それでも。
血を流しすぎ、青ざめた弥太郎の顔は、笑っているのか。
こうなる前に、何人も黄泉路に送り、返り血も存分に浴びた、弥太郎の表情は悪鬼のごとく凄惨で……しかし。
どこか穏やかにも見えた。