雪情
【存在せぬものー2】


「ついでだが白井よ、
お湯も沸かしてくれんか?」




「お湯?お産か?」




「バカモン、
飲むためのお湯だよ。

まったく
冗談ばかり言いおって…」




はいはいと言った感じで、
白井はお湯を沸かした




「お湯を飲むのですか?」




大久保はそう言うが、
田崎は一番寒い格好を
していたので、

お湯で
体を温めたかったのである。




「スマンの大久保さん。

体が冷えきっているから
お湯を飲ませていただくよ」




「いやいや、

お湯を飲むくらいで
そんな丁寧に言わなくても
良いですよ」




「いえ、
今のワシには
かなり重要なものですから」




「でしたら、
お湯と言わず
温かいお酒でも
飲んでください。

たくさんありますから」




「いや、
ワシは下戸で…

お酒はまったくの
苦手でしてな」




と言うのは
まったくの嘘である。




田崎はここでも
遠慮をしていたのだ。




「そうですか?

お酒好きに
見えたのですが、

私の勘違いでした」




そう言いながら
大久保は頭を掻いた。




奥で白井が


(あーあ、
やせ我慢して………)




とクスクスと
微笑していた。




それと、
田崎には酒を飲まない
理由が

もう一つあった。




田崎の体は今限界を超え

眠気も頂点を越えて
しまっている。




さすがに
ここまでくれば
逆に元気が出てしまい、

眠気もスッカリ
なくなってしまった。




しかし
酒を飲もうものなら、

この状態が
一気に崩れ去り、

眠りに
陥ってしまうことを
田崎は分かっているので
ある。




「…にしても
結局雪男に
遭遇できませんでしたね」




「うむ………

これといった
手がかりも
なかったが……」




そう言い田崎は
頭を抱えた
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