比丘尼の残夢【完】
チクリと胸が痛んだのは何故。


私の一番上の兄ちゃんは、子供がもう二人いる。

ご主人様にそういう人が居たって当然だ。


「宇治方様は、昔からご主人様のお友達なのですか」

「うん、悪友でね。もう二十年近く知ってる」

私が生まれる遥か前。


車窓から見える街並みの中から洋館が減った。

見知らぬ景色と同じように、私の知ることのないご主人様。

ちょっと寂しくなった。



道中の和菓子屋に立ち寄って手土産を買い込み、ついでにおやつに饅頭を買ってもらった。


「美味しいです」

るん。

機嫌を直して食べていたら、それを見た医者が少し笑った。

笑ったところを初めてみたから、もしかしたら見間違いだったかもしれない。
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