比丘尼の残夢【完】
一体ご主人様は、あの医者に何をしたのだろうか。


「お疲れ様でごぜぇます... 」

「あはは! 聞いた? 今の!」

ご主人様は腹を抱えて笑いながら居間に来て、息苦しそうにソファーに転がった。


「へぇ... 」

聞きましたとも。

何だかさっきの接吻が恥ずかしくて、ご主人様と顔を合わせるのが気まずい気がしていたのだが。

そんなもの忘れるほどの怒鳴り声だった。


「何をなさったんでごぜぇますか?」

「はぁ、可笑しかった! 何って?... ははっ」

またそんなに笑うと発作を起こすのではないかと、ハラハラする。


「あいつの嫁の初めての接吻の相手は俺だと冗談で言ってやったら! 注射器自分の足に落としやがった!」

「...... 」

冗談にしても、なんて悪趣味な。


「帰って夫婦喧嘩だ。ザマアミロ」
< 56 / 104 >

この作品をシェア

pagetop