比丘尼の残夢【完】

※scene9『何処までやるつもり』

紫陽花の花が枯れて、季節は夏になった。

二人きりの生活は相変わらずで、ご主人様は日がなダラダラとしている。


相変わらずお屋敷の人は、誰も離れにやってこない。

ご両親はすでにいないらしいが、弟とその奥方はご主人様が伝染病などではないことを知っていると言うではないか。


「冷たくないですか!?」

ジャキ! と鋏を動かすと、焼けた庭の土の上に括れるほどだった黒髪が束になって落ちた。


「うお、... 大胆に行くな、ずいぶん... 」

最後に切ったのはお婆ちゃんが元気だったころ、バリカンで坊主にされたと言っていたけど、何時の話なのだろう。

邪魔だから切ってくれと頼まれて迷ったが、私と医者にしか会わないのだから髪なぞどうでもよいらしい。


「会いにくらい! 来たら! 良いのに!」

ジャキジャキジャキ。

流石に心配になったのか、宥めるような声がした。


「俺が来るなと言ってるんだよ? 伝染病でないとバレたら面倒だからさ」
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