ADULT CHILDREN
けんちゃんが部屋から出て来たのは夜の9時頃だった。


「紗枝は?」



リビングに戻ってきたけんちゃんの顔を見ても
その目を私には向けてくれない。


「今寝たとこ」


ため息をつき、下唇を歯で軽く挟み何かを考えているような顔。

そんな顔を見ても待っていた間の不安が解消されるわけもない。



「今日紗枝泊まらせるよ」


泊まらせていいかどうかは聞かないんだ―――



「ごめんね。せっかく誕生日なのに」


本当にそう思ってるの―――――



「ううん。疲れたでしょ?ご飯どうする?」



本当は不安で一杯なのに
自分の気持ちは隅に置いた。

今、わがままを言えば
今、嫌われてしまったら
どうすればいいかわからなくなるから。



「ごめん今日はいいや。ちょっと横になっていい?」



「…うん」



せめて傍にいたくて
一緒にベッドに入った。


でも数分もしないうちに私はそこから体を動かす。


けんちゃんから紗枝の香水の匂いがしてきたから。



呼吸ができなくなってしまいそうだった。



「私、やっぱりお腹空いたから何か食べてから寝るね」




「わかった。ごめんね」



大きな背中を見つめてさっとカーテンを閉めた。


< 295 / 719 >

この作品をシェア

pagetop