あなたの大切なもの
手足は震えて、声もかすれる。
涙が…止まらない。
だけど…刹那がっ!

「綾女救急車! あと警察も!」

「やりよう! やけど手が震えてボタンが――」

「――俺のせいやない。 俺じゃない。 俺がやったんじゃない」

呪文のように、同じことを繰り返し呟く良紀を睨んだ。

「黙れ! お前は後で警察に突き出す。 はよ刹那から離れろ」

初めてこんな言葉を使った。
人に対して、『お前』なんて、本気で使ったことのないあたしが。



あたしの怒声が効いたらしく、良紀は刹那から離れ、その場にしゃがみこんだ。

あたしは、刹那にかけよる。
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