光と闇 ~鬼と自然と人
ムスヒヒの名は樹作(キサク)という。

その者、樹の神を崇め守り目として今まで生きてきた。
その昔またその昔の言い伝えを守り樹に宿る樹木神を守りムスヒヒ達と地上世界の安寧を願っていた。

―しかし…。

それも今夜限りかもしれぬ。そう樹作は思った。あの東より来られる神が降りて下されば…。


言い伝えがあった。

地上世界が炎で包まれる頃、東より光が階をなすとき、龍球の姫が現れて全てを浄化するであろう。


ムスヒヒの最長老であった祖母が鬼人からかばうように樹作を逃がす前に言った最後の言葉であった。

樹作は赤く染まった空を見上げた。


…一人では何もできません。

樹作は一筋の涙を流すと希望までも流れようとしていた。

その時、やわらかな風と共に何かがひらひらと頬に落ちた。

―桜だ。


今は桜の時期で、本来ならば淡い桃色を国中につけて皆春を喜んでいた。


のに…。


残った桜の木と一人になった自分が今、別世界にいるように感じた。


「守り目よ。樹の神に仕えし者よ。」


樹の中で響いて聞こえてきた。

我が名はコノハナノサクラビメ。桜より生まれし姫なれど。
我もお前も今ここで何もせずとも散っていくらむ。
なれど、同じ散るなら一花咲かせて散るもよかろう。


そういうと、強い光が樹木から放たれるとそれが淡い桃色の球となり意志を持った。


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