世界で1番愛してる


一ヶ月、外出も外泊もできない涼太はきっとどこでも良いから外に出たいんだと思う。

例えば、それが病院の中庭なんかでも今の涼太は飛んで喜ぶんだろうね…。



「センセーまだ来ねぇのかな……」

「もう来るよ。………涼太?」

「……っ悪い、ちょっと…」


来た…。

この瞬間はいつ見ても泣きたくなってしまう。



「大丈夫、吐いたら少しはよくなるよ…ね?」


抗がん剤は本当に恐ろしい。
例え、生きるための術であっても恐くてたまらない。

病室に備え付けられた洗面台まで涼太を支えて移動するのも最近では当たり前になった。


その度に吐き気と必死に闘う涼太の背中を摩る事しか、私にはできないんだ…。



「………ごめん、だいぶ楽だわ」

「よかった。ベッド戻れる?」


申し訳なさそうになんかしなくていいんだよ。


抗がん剤の副作用で常に吐き気がある涼太。
少し調子が良さそうだなって思っても、突然吐き気に襲われて今みたいになる。

髪の毛も今はもう抜け落ちてほとんど生えていない。

だからニットの帽子をプレゼントしたら当たり前のようにいつも被っている。



「…はい、お水。」


ペットボトルに入ったミネラルウォーター。
少しでも気分がよくなるように、少しでも気分が沈まないように。

いろんな意味が篭ったミネラルウォーターを涼太に手渡した。



「…サンキューな。」

「ううん、これくらいお安い御用ですよ。お兄さん?」

「俺お兄さん?いやー、照れるなぁー。」


少しの冗談を言えば、いつもみたいな空気に変わる。

私や涼太が悲観する事は今はない。


あの時、涼太の本音を聞いてからはお互いによく話すようになった。
辛い事や嬉しい事、何でも共感できるようにって願いを込めて。



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