世界で1番愛してる
病院から少し歩いた駅に向かう。
その間も慣れ親しんだはずのこの街が違う街にすら見えた。
涼太がいるだけで世界が変わる。
「涼太、大丈夫?」
「おう!絶好調だから心配すんなって。」
涼太も機嫌が良い。
久々の外の世界。お世辞にも空気が綺麗とは言えないけど…
駅から電車、私たち風に言えば汽車に乗る。
小さな市だから汽車も小さくて三両しかない。
汽車で二駅、無人の駅を出れば人影はほとんどない田舎町。
空気が綺麗で自然もたくさんある。
空が異様に近い。
「懐かしいなー」
「うん。一年しか経ってないんだけど…懐かしいね。」
無人駅を出て田舎道をゆっくりと手を繋いで歩く。
それだけのデート。
どこかで買い物するとか、カラオケに行くとか、ご飯を食べに行くとか…
そんな事しないのんびりしたデート。
「シズ、シズ!ほら…」
「え?……………っやだ!」
「くくくっ…」
どこから見つけたのか……
涼太の手にはバッタ。
私が嫌いな虫を面白がって私に突き付けて来る涼太。
―――…子供だ…。
「サイアク…」
「そんな怒んなって。な?」
繋いだ手をギュッて握ってむくれる私に笑顔を見せてくれる。
たったそれだけなのに、私の機嫌はすぐに直るんだ。