Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 別に、たいした事をしたわけではなかった。

 近日中の再会を約束し、凛花達と別れてすぐの事だった。

 残月と一緒に、千里が待っているはずの家路に向かう途中。

 不可視を使って、こっそり帰る気になった。

 東星学園の内外に詰める警察官や、報道陣のあまりの多さに辟易して。

 僕に残された体力と気力は、底をつきかけていた。

 残月も最初に僕に血を吸われた挙句、大きな『輪』の一部を担ったのだ。

 口には出していなかったけれど、相当疲れているようだった。

 二人とも『不可視』として、人間の注意を外せるかどうか。

 望むだけの効果が出るかどうか、疑問だったけれども。

 裏庭とはいえ。

 化け物の巣だった校庭の片隅から、僕達がひょっこり現れたら。

 さすがに、人間の好奇心を煽るだろう。

 凛花や、穣ならともかく、僕達がなにやかやと詮索され、もし今、吸血鬼とバレた暁には目も当てられなかった。

 数多く、人間の犠牲者が出た後だった。

 恐怖に駆られ、パニックに陥られたらとても危険だった。




 だから。



 そっと、人間の前から姿を消すつもりで『不可視』になる言葉を紡いだ。

 それだけだった。
 
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