君を

9


『相良…?あ、相良さ…えとすなお…だっけ?』


心地良い風の吹く、普段人の来ない校舎裏。
いつの間にか隣に永久くんが居た。

声は変わらない筈なのに、聞き慣れない言葉達。
永久くんから相良、とかすなおと呼ばれるのは何年振りだろう。


ふわり。
なるべく明るく見えるように小さく笑って伝える。
『相良でいいよ、白石くん。呼びづらいでしょう』

馴れ馴れしくならないように、距離を置く。
良い頃合いなのかもしれない。
手持ち無沙汰に揺れる彼の骨張った大きな手を見る。
あの手を取る時に誓った。
必ず離れると。
ひとりになると。


その時が来ただけ。

何も怖い事はない。
いずれ訪れる事柄。
ずっと覚悟していた。
貴方に触れて、キスして、一緒に眠っている時も感じていた。
いつかこの日が来るって。




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