ぼくたちは一生懸命な恋をしている
遠野さんが探していた秋山くんって、この男の子のことだったんだ。ケンカしてるみたいだけど、ほんとは仲良しさんなんだろうな。二人の距離は、とても近いから。
ベッドから引きずり降ろされた秋山くんが口をとがらせて、うらめしそうに遠野さんに言う。

「せっかくあいりちゃんがかばってくれたのにぃ」

「アンタ、それ本気で言ってるの?」

「……どういう意味?」

「百瀬さんは人をだませるような子じゃない、と私は思うんだけど」

にらみ合っていた二人が、同時に私のほうを見た。遠野さんは得意げ。秋山くんはきょとんとして、一瞬の間をおいてサッと顔色を変えた。

「まさか、ほんとに俺の名前知らなかったの!?」

「ひえっ、あの、すみません知りませんでした……!」

「マジか」

信じられないものを見るような目に、いたたまれなくなる。もしかして秋山くんって有名な人だったのかな。

「秋山くんもかなでみたいなお仕事してる人なんですか?ごめんなさい、私あんまり詳しくなくて」

とんでもない失礼をしてしまったのかと必死に謝る私を、突然、無邪気な笑い声がさえぎった。遠野さんが、普段のクールな感じからは想像できないくらい、楽しそうに笑ってる。

「百瀬さん、あなた面白いのね」

全然話についていけなくて、私はオロオロするばかり。でも褒められてるし、なんだか楽しそうだからいいのかなぁ。
ひとしきり笑った遠野さんは、秋山くんが芸能人じゃないってことを教えてくれた。

「ぜんぶ秋山の『勘違い』だから、百瀬さんは何も気にしなくていいからね」

そうは言っても、秋山くんはさっきからずっとうつむいたままなんだけど。

「大丈夫ですか?」

そっとたずねると、茶色の毛先がふわりと揺れた。うなずいたのかな?秋山くんのつむじを見つめる私を見て、遠野さんはクスクス笑った。

「ねぇ、敬語なんか使わないで。私、百瀬さんと友だちになりたいな」

ふいに投げかけられた言葉に、心がはねた。
友だち。
あたたかくて、どこかワクワクする響きを持つその単語に当てはまるような人が、私には今までいなかった。
胸が高鳴る。初めての友だちだ。

「私も、私でよければ、遠野さんと友だちになりたい」

そう言った私に遠野さんが微笑み返してくれた、そのとき。

「待ってよ!俺もあいりちゃんと友だちになる!」

やっと顔をあげた秋山くんは、ちょっと涙目だった。
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