ぼくたちは一生懸命な恋をしている
「すごい、あいりちゃん料理上手だね!」

昨日の私と同じように、秋山もあいりちゃんのお弁当に目を輝かせた。今日は豚のしょうが焼き、アスパラガスのベーコン巻き、煮卵、つやのある赤と黄色のパプリカはマリネだろうか。ご飯にかかっているじゃこのふりかけも手作りに見える。

「隼くんは、それだけ?」

心配そうなあいりちゃんの視線の先には、コロッケパンとメロンパンのふたつだけ。あまり人のことを言える立場ではないけれど、栄養バランスなんてあったものじゃない。

「無理しないで今日のところは学食に行きなさいよ」

「無理してない」

「二度と来るなって言ってる訳じゃないの。これから先いくらでも一緒に食べられるんだから」

「ひとりで学食に行くほうが無理」

地面に座っている秋山をベンチから見下ろしていると、その表情は余計に幼く見える。駄々をこねないで。このままじゃ、絶対に。

「あの、私のお弁当でよかったら半分食べる?」

ほら。あいりちゃんは優しいから、そう言うと思ったのよ。放っておいたら「みんなの分のお弁当も作ってくるね」などと言い出しかねない。次からはコンビニ弁当でもいいから体裁のいいものを持ってくるように、あとで秋山にはきつく言い聞かせておかないと。

あいりちゃんがお弁当箱のフタにおかずの半分を盛りつけて秋山に渡す。

「やったー、ありがとう!じゃあ、俺からはこれを」

お礼が百円のメロンパンじゃ釣り合わないでしょう、と私が不満でも、もちろんあいりちゃんは喜んでいるから口出しはしない。その代わり、すっかり寂しくなったあいりちゃんのお弁当箱に、今朝少し早起きして作った私の卵焼きを入れた。

「昨日のお返しね」

「わぁ、ありがとう!いただきます」

焦げないように、生焼けにならないように、慎重に作った卵焼きは無事に「おいしい!」と褒めてもらえた。そのやりとりを見ていた秋山が、

「俺には何もくれないの?」

なんて図々しいことを言ってくる。しかたないから自分のお弁当を品定めするも、今日も見事に冷凍食品の詰め合わせだ。どう考えても唯一手作りの卵焼きを選ぶしかない。

「はい、どうぞ」

渋々だ。お箸で卵焼きを差し出して、秋山が持っているあいりちゃんのお弁当箱のフタに乗せようとした。でも、乗せられなかった。身を乗り出してきた秋山が、私のお箸から直接、食べてしまったから。

「ん、悪くないんじゃない」

私のハンカチに座って、私の作った卵焼きを食べて、素っ気なく言う。

「なかよしだねぇ」

心臓の音がうるさくて、あいりちゃんの声が遠い。

やめてよ、私。
こんなことで、こんなに喜ばないで。
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