ふたまた彼氏
彼の笑顔を見て
きゅっと胸が痛んだ。

ちくりと胸が痛むので
胸やけかなぁ。
なんて思ったりして。



━この時は
気が付いてなかった。
気づきたくなかった。
あの時この気持ちが
始まらなければ
今はただ平凡な
人生だったのに━



『俺、君と仲良くしたい。
だからよろしくっ!』

にぃっと意地悪く笑う。
けどなんだか彼は
この笑顔が
似合っているみたい。

「君じゃないよ。
あたしの名前。」

冗談半分で言ってみた。

『ごめん
本田美紅さんだよね。
よろしくね。』

覚えているなんて
正直思ってなくて
少し嬉しかった。

「こちらこそ。」

今度はちゃんと
にっこりと笑い
彼に笑顔を向けた。

平野隆斗と言う
男はなんとも不思議な男で
見れば見るほど
吸い込まれそうになっていく。

にひっと音が鳴るくらい
笑って見せて
もう一度眠りについた。


すっかり眠ってしまって
起きてしまった頃には
もぅ日が暮れていた。

紙に書かれてあった

[風邪引くなよ]

はきっと平野の字だろう。
雑っぽくて
荒々しい字で。

あたしはそれを握りしめ
カタンと席を立った。

ほころぶ顔を撫でて
教室を後にした。
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