『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】
第153話

 雷が鳴り大雨が降ったその日。

坂井さんの奥さんが亡くなった。

 昭太郎がここで一番嫌いな人だった。

 坂井さんは5年前に肝臓移植手術を受けたが再手術を要する状態になり、2回目の移植を受けに来ていた50過ぎの女性。

肝機能が悪いその顔は黄色く、痩せていた。

ふてぶてしい態度と諦めの言葉を発する人だった。

まだ自分だけに悪態をつくならまだしも、出会った初日に昭太郎に言った言葉は忘れられない。

「あんた、ダメだね、覇気がないよ、死にそうだね」
強い目を持っている人だった。

坂井の旦那さんも諦めかけた態度で「しょうがないじゃない、移植しかないんだから、連れて来なきゃしょうがないでしょ」とかったるそうに言う感じの悪い夫婦だった。

 その日、坂井さんの旦那は挨拶してまわっていた。

「今までありがとうございました。こっちで火葬してから帰ります。長い間お世話になりました」

 その毅然とした態度は今までの坂井氏とは別人のようだった。

「元気そうに見えてましたけど、突然だったんですか?」
 そう訊く昭太郎に坂井はゆっくり答えた。

「家じゃあ毎日辛そうだったよ」

「そうですよね・・・すいません」
 そう言った昭太郎はバカなことを言ったなと反省していた。

 病人が元気そうに見えるのは人に会えるようなときにしか見てないからで、本当に辛いときは家族しか見ていないものなんてことは自分でもわかり過ぎる程わかっているのに・・・特に外出するときは2割り増しで元気を装うものだよな・・・

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