好きだけじゃ足りない




「………………」

「伊織君、食べないのかしら?」


スーツのまま、ジャケットだけ脱いだ伊織はダイニングテーブルの椅子に座ったままピシリと固まっている。

そんな伊織を楽しそうに見ているのは明さんと優ちゃん。



「ほんとに嫌いなんだ…」

「…まぁ…な。」

「あら、好き嫌いは駄目よ。ゴーヤは体に良いし夏バテにだって効くんだから。」


にこにこと目の前の親子は本気で楽しそうだ。
伊織は好き嫌いしないと思っていた私は驚きながらも、明さんの言葉に内心ツッコミを入れてしまった。


――…今は夏じゃないけど…。



「今は夏じゃないから夏バテになんかなりませんよ…」

「でも体には良いんだから。」


伊織の言葉は聞き流しているのか、取り皿にゴーヤチャンプルを乗せて伊織に手渡している。

心なしか…いや、間違いなくゴーヤが大半を占める皿の上のゴーヤチャンプルに伊織が思いっきりしかめっつらをしたのは言うまでもない話だったりする。





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