悪の姑シリーズ
 寝室のドアが開き、一郎が戻ってきたのかと振り返ると、般若のような表情のカツコが立っていた。


「廊下で話しが聴こえてねえ、一郎に私のことを色々云ったようだけど、あの子はあんたの云うことなんぞ信じなかったろ。どうしてか分かるかい?」


 ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべるカツコが不気味に見える。
 千香子は言葉も出てこず、ただ無言でかぶりを振った。


「こんなこともあろうかと先手を打っておいたのさ。涙ながらに千香子に意地悪されてるってね。一郎は優しい子だから、悲しい顔をして、俺が何とか千香子の様子を探ってみるから母さん元気出してって云ってくれたよ。だから、あんたが一郎に今頃何を云っても信じてはもらえないだろうねえ」


 カツコは下品に笑い声をあげると、寝室を出ていった。

 そんなカツコの後ろ姿を見送りながら、千香子は拳を強く握りしめ、初めて殺意を抱いたのである。

 千香子は、自分よりもカツコを全面的に信用している一郎のことも許せない気持ちで一杯だった。


 その時、後一年、早くて後半年、辛抱しようと決心した千香子はくすりと奇妙な笑みを浮かべた。
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