天使の足跡

「待って!」


僕がまた一歩距離を詰めると、


「自分に関らないでください」


唐突にそう言われて、僕は眉をひそめた。

いきなりすぎる絶縁宣言に、心が軋む。


……絶縁と言うより、正確にはまだ始まってもいないけど。


「そうしないと明日、学校で変な噂が立ちますよ」

「何言って──」

「槍沢くん」


聞き返そうとした僕の声は、彼女の静かな声に遮られた。


「噂、知ってるんですよね? だったら、関わらないでください」


怒るでもなく、咎めるでもなく、淡々と。


冷たく光る瞳が、なんの感情も持たずにじっと僕を見ていた。

ちょうどガラス玉の隅に光が溜まるような輝きで。


「……僕が関っちゃいけない理由があるのか?」

「西高では、だいぶ悪い噂が広まっているらしいですね。次にどんな噂が立つか、分からないじゃないですか」

「そんなの関係ないよ。僕は信じてない」


言った後で、何だか芝居じみた、くさい台詞だなと情けなくなる。

でも僕はそれが本当のことだと思っていた。

もちろん、田中の話に耳を傾けた自分も含めて。


「とにかく……放っておいて」


初めて無表情な顔に困惑の色を見せた。

小さな声で僕は言う。


「僕には、君が何でそんな事を言われてるのかわからない。でも──」


黙っていたオオタに、僕は声を大にして言った。


「──でも、信じるか信じないかは自由……だと思う」


結局、声が大きかったのは始めだけで、言葉の終わりにかけてデクレッシェンドされていく。

自信がなかった。


「僕だって最初は噂を信じてた。でも、昨日話してみたら、みんなが言うような人には思えなくて」
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