天使の足跡
さようなら、僕の初恋。
さようなら、僕の青春。
周りに誰もいなかったら、ちょっと涙が出そうなくらいだ。
“今なら、彼が本当に
言いたかったことが分かる。
どうして「関らないでくれ」
と言ったのか。
それは僕の勝手な解釈だけれど
僕に忠告してくれたのだと思う。
……この先、僕が
後悔しないように。
そう思えたのは、
ずっと後になってからだ”
その時、あることに気付いた。
今まで気付かなかったが、彼の左肩から、大きめのショルダーバッグがかけられていた。
「部活?」
……にしては、たくさん物が詰まりすぎてる気もする。
僕の視線の先を辿って、彼はバッグに触れた。
「まあ……」
「いつもそんなに荷物持ってバイト行くの?」
すると口を少し開けたまま、考えるように黙った。
それから明後日の方を向いた。
「実は……父親がアパートに来るって言うから、抜け出してきたんです」
「え? それってまずいのか?」
「まずいですよ」
「別にいいじゃん、それくらい」
「よくないんです。学校から連絡がいってないとも言い切れないし、色々怒られるかも。
だから、しばらく帰らないことにしたんです」
どうやら、田中の話もこればっかりは当たっているらしい。
内容までも当たっているとは限らないが、もしも危ない事をしていないのなら、ここまで焦る必要はないはずだ。
でも、そんなことはこの際どうでも良くて。
それよりも、家を出た彼がこの先どうなるかが心配だった。
「どうするの? 兄弟とかは?」
彼は首を振る。
「姉の所に行こうとしたんですけど、まだ仕事で帰ってないみたいなんです。兄は実家だし」
その返事を聞いた時。
なぜだろう?
彼が困っているはずなのに、僕の心の奥底から、何かくすぐったいようなものが、じわじわと湧き始めていた。