天使の足跡
「そういえばオオタってさ、部活やってないの?」

「バスケ部です」

「バスケ? 同じだ、僕は1年でやめちゃったけど。バイト優先したくてさ」


初めて会ったとき、オオタの名前に『聞き覚えがある』と思っていたけれど、それは間違いじゃなかった。


1年生の頃の大会で、もしかしたらオオタを見たことがあったかもしれない。

大会のプログラムでも探して開けば、きっと名前が載っているはずだ。


「オオタの家族は? どんな人?」

「うーん……父親とはよく殴り合いになったりしますよ」

「殴り合い!?」

「お互いに頑固だから」


何だかこの会話がおかしかった。

容姿は女の子っぽいかもしれないが、実は喧嘩に強いオオタ……。

意外といえば、意外だ。


あははっと声に出して笑い、部屋を片付け終わった僕は制服の上着を脱いだ。


「制服貸して。掛けとくから」


僕は太田から制服を受け取り、ハンガーに吊るそうとして驚いた。


しばらくの間、手が止まる。


「そっか……南高校、だったっけ……」


偏差値の高い、高校の制服。


僕はその高校を諦めて今の学校に落ち着いたのに。

夜にふらふらしている彼の方が、僕なんかよりもずっと頭が良いらしい。

それが意外で、今まで以上に彼が不思議な存在に思えた。


彼には言わなかったけれど僕のイトコもそこに通っていて、──正直に言うと今でも悔しいという思いがある。
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