天使の足跡
「槍沢くんは優しいんだと思う。そんな風に親のことを考えて、自分で打開策を探して。……でも、それじゃあまだ半分」

「半分?」


彼の言葉に非難は含まれてはいなかったと思う。


川の流れを見据えながら、太田が軽く息を吸う。


「伝えたいと思っても口に出さないと伝わらないことって多いよ、本当に分かってもらうのって難しいし、すごく勇気がいるから。
何も言わなくても解ってくれる人もいるけど、本当に分かってくれる人は大体、すぐには『解った』って言わないよ」

「へぇ……何でそう思うの?」

「本当に自分のことを考えてるなら、どこまで本気なのか説明してほしいと思うでしょ? 例外もあるけど」

「なるほど」

「思うことは言った方がいいよ。そうしないとどこまでも裏切ることになるし、時間が経てば経っただけ悲しむと思うよ、槍沢くんのお父さん」


「お父さん」の部分にアクセントを置き、横目に僕を見て微笑した。


いつもの太田らしくない発言だった。


いつもなら、この手の話には適当に合わせるだけなのに、今は声に力がこもっているような気がした。


まるで、自分自身に教え諭すような話し方……


もしかしたら、太田も何かを考えている最中なのだろうか? 



その時、遠くから子供たちの声が聞こえてきた。
同じアパートに住んでいる、小学生の男の子3人組だ。


僕らが斜面の上の道を見上げると、サッカーボールを蹴りながら無邪気に走っているのが見えた。


その様子を微笑ましく見ていたら、男の子たちが蹴ったボールが、斜面を下って僕の所にたどり着く。


彼らは僕に大きく手を振った。

時々、彼らと遊んでやることがあるから、今ではすっかり友達だ。
< 37 / 152 >

この作品をシェア

pagetop