天使の足跡
ゆっくりと口が開いて太田が何か言い出すまでは、僕は何も言えなかった。


「槍沢くん……」

「なに?」

「槍沢くんはもう、友達……だから……何でも話すって、決めたんだ」

「え? うん……ありがと……。どうしたの、急に? 何かあったの?」

「……」


少し開いたままの唇は閉ざされない。


その状態で、果てしなく続く青天井を見上げて考えた後、首を傾げて目を伏せる。


何か言葉を整理しているかのようだったから、彼が話してくれるのを再び待った。

それほど時間は掛からなかったけど、1分くらいは待ったかもしれない。

いまだに伏せられている瞳は、草原に差し込んだ白い日光を吸いこんで、鋭い光を宿している。

その様子から、これから彼が語りだそうとしていることに、不安が含まれているのだろうと推測した。


つまり、それくらい深刻な表情だったということだ。


「あの……」


と、もう一度言い直す。


「他人なのに、寝床まで貸してくれて、すごく感謝してるんだ。こうやって、男同士……生活してるわけだけど……だからこそ、槍沢くんには、ちゃんと言わなくちゃと思って……」

「何を?」

「自分は──」


何度か言葉を運び出そうとしている唇。


「実は……」


だけど、やっぱり口を閉ざす。


「……ごめん、忘れちゃった……」


ふっと笑みを浮かべて言った。


そして顔を膝の上に伏せたので、どうしたのかと慌てていると、太田は空を指差した。

人差し指を高く上げたから、僕もつられて空を仰いだ。
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