天使の足跡
歩き出そうとする彼を、拓也の言葉が制止した。


しばらく、無言の数秒が過ぎる。



『あのね』──





 * * * * * *





──と、申し訳なく思いながら僕は口を割った。


「太田は、自分のことをあまり話してくれなかったよね。僕は、太田の名前と身長と、通っている学校……バスケ部だってことと……兄弟が2人いること……それしか知らなかった。
あと、笑い方が下手な奴だってこと……。
僕の知っている太田は、本当に、それだけだった」


思い切り息を吸い込むが、次の言葉が出ずに、空気は薄い溜息のように漏れていく。


うまく言葉にまとまらない。

話の途中で何度も言葉が詰まった。


電話をかけたまではいいけれど、実際、話すことなんて何も考えてなかった。

素直に伝えようという、ただそれだけの気持ちで話している僕。


「だけど、部屋を共有して、少しずつだけど、いろんなことが分かった。料理が上手いこととか夏場の寝相が悪いこととか……それから……秘密のこととか。正直、それには驚いたけど」


緊張からなのか、不安からなのか、この声は震えていた。


いつも発声には気を遣っていたけれど、今は、普通に話すことすらままならない。
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